電気結合を持つパルスニューラルネットワークにおける
Stochastic Synchrony of Chaos




ssync.jarをダウンロードしてダブルクリックして実行してください(コマンドラインでは java -jar ssync.jar)。

シミュレータが実行出来ない方は adoptium.net からOpenJDKをインストールしてください。




シミュレータ解説

パラメータ設定 フィールド上をクリックすることで、
ノイズ強度 D (横軸) と集団間結合強度 gext=gEI=gIE (縦軸) を設定できます。
パラメータの値によって、同期振動やカオス的同期振動が見られます。
パラメータは左の2つのスクロールバーでも変更できます。
(JE,JI) (JE,JI) 平面における集団的発火頻度 JE,JI の変化を観察できます。
カオスアトラクターも見られます。

また、右側のスクロールバーでズームイン/アウトできます。
(nE,nI) 興奮性および抑制性集団の確率分布の時間変化を表示します。
が興奮性集団、が抑制性集団を表します。
JE(t)、 JI(t) の時間変化 興奮性および抑制性集団の集団的発火頻度 JE(t)、 JI(t) の時間変化を表示します。
が興奮性集団、が抑制性集団を表します。
下の NE=NI=100 なる系のシミュレーションと対応します。
NE=NI=100 なる系のシミュレーション NE=NI=100 なる系の発火時刻を黄色でプロットします。
1 から 100 が興奮性ニューロン、101 から 200 が抑制性ニューロンです。
NE=NI=100 なる系の集団的発火頻度 NE=NI=100 なる系の集団的発火頻度の時間変化を表示します。
上の JE(t)、 JI(t) に対応します。
が興奮性ニューロン、が抑制性ニューロンです。


パルスニューラルネットワークにおける振動・同期・カオス」と同様、 周期的に振動しているわけではない (excitable) ニューロンのネットワークで
興奮性集団と抑制性集団の相互作用がある同期モデルを考えます。

パルスニューラルネットワークにおける振動・同期・カオス」と異なるのは、
抑制性ニューロンにギャップジャンクション (gap junction) による電気シナプス (electrical synapses) を導入したことです。
これは、皮質や海馬などにおける生理学的な知見を取り込むためのものです。

すると、新たに「集団運動はカオス的であるが、1 素子の発火頻度は小さい」という現象が現われます。
これを Stochastic Synchrony of Chaos と名付けました。以下で紹介しましょう。

パルスニューロンのモデルであるシータニューロンの結合系を考えます。

このネットワークはゆっくり結合した class 1 ニューロンの canonical model と呼ばれます。
系には興奮性素子 θE および抑制性素子 θI がそれぞれ NE、 NI 個相互作用しています。

相互作用 IX(t) は、素子がパルスを出力したときに他の素子に影響が及ぶようになっており、これは化学シナプスと呼ばれる結合をモデル化しています。

このモデルではさらにギャップジャンクションによって実現される電気結合と 呼ばれる結合 Igap(t) を抑制性ニューロン間に導入しています。
これは皮質や海馬の抑制性ニューロンにはギャップジャンクションが多いという 生理学的知見を取り込むためです。

この系はノイズ (強度 D) を含んだ確率的な系ですが、素子数無限大の極限を取ることで、
興奮系集団と抑制性集団の確率分布 nE、nI に対するフォッカー・プランク (Fokker-Planck) 方程式が導かれ、 系のダイナミクスを解析することができます。
このシミュレータの上半分はフォッカー・プランク方程式を用いたネットワークの解析をあらわしています。

フォッカー・プランク方程式の解析によると、この系には上図に表されるような 低次元カオスが存在することがわかります。
この図の横軸は興奮性集団の集団的発火頻度、 縦軸は抑制性集団の集団的発火頻度です。 このようなカオスアトラクタは、ニューロン集団においてはカオス的同期に対応します。

一方、パラメータによっては、右の図のように「小さな」カオスアトラクタ も見られます。 このような「小さな」カオスアトラクタは ニューロン集団においては Stochastic Synchrony of Chaos という現象に 対応します。

Stochastic Synchrony とは、「ネットワークの集団運動は同期的な 運動を示すものの、素子一つ一つの発火頻度は小さくその運動はランダムであるような 現象」ですが、
Stochastic Synchrony of Chaos とはさらにその集団運動がカオス同期で あるような場合を指し、このモデルにおいて初めて見つけられました。
Stochastic Synchrony of Chaos の典型的な発火パターンは 左図のようになります。

素子一つ一つの発火頻度は小さいけれども、集団運動はカオス的である ことがわかるでしょう。

このシミュレータではこの Stochastic Synchrony of Chaos を 素子数無限大のフォッカー・プランク方程式のレベル (上半分) と 素子レベル (下半分) で観察することができます。

Stochastic Synchrony が起こるメカニズムですが、まず、ニューロン集団の平均的振舞いが各ニューロンへのフィードバック入力となります。
その入力が閾値以下であるとき、各ニューロンは元々加わっていたノイズにより発火し、 Stochastic Synchrony が起こるわけです。

このように、閾値以下の入力とノイズという組合せは確率共鳴 (Stochastic Resonance) に特徴的なものです。
確率共鳴は外界からの入力を受け取る感覚系で起こると言われていますが、
そのメカニズムは大脳皮質のような高次の領域でも利用され得ると考えています。

このページは以下の文献を参考にしています。
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