結合写像格子 (Coupled Map Lattice) と大域結合写像 (Globally Coupled Map)
maplattice.jar
をダウンロードしてダブルクリックして実行してください (コマンドラインでは java -jar maplattice.jar)。
シミュレータが実行出来ない方は
adoptium.net
からOpenJDKをインストールしてください。
結合写像格子 (CML; Coupled map lattice) と大域結合写像 (GCM; Globally coupled map) は以下の式で 定義される離散時間写像です。
CML はカオス写像 x
n+1
=f(x
n
) を局所的に拡散結合したもので、 GCM は大域的に結合したものです。
ここではカオス写像としてロジスティック写像 f(x) = 1-a x
2
を考えます。
a=r(r-2)/4、x=2(2z-1)/(r-2) の変換を行うと良く使われる形 g(z) = r z(1-z) に変換されることに注意しましょう。
このモデルは金子邦彦氏らにより導入されたものですが、その生まれた背景には、
複雑系
と呼ばれるシステム、すなわち生態系、DNA ネットワーク、経済活動、脳のネットワーク、生物の進化などの
大自由度システムのダイナミクスを理解するための一般的な枠組みを作りたいという意図があったのだろうと思います。
復習しますと、非線形力学とカオス理論は低次元の複雑な現象を理解することには一定の成功を納めました。
ここで「低次元」とは、システムを記述する方程式の変数の数が少ないこと (例えば
ローレンツ方程式
では 3) や、
あるいはシステムでカオスを示す次元の数 (正のリアプノフ数の個数) が少ないこと (例えば
ローレンツアトラクター
では 1) を意味します。
このような系では例えば
ロジスティック写像
のような一般的で単純なモデルの解析で得られた知見が有効に活用されました。
しかし、複雑系のように大自由度な系の理解となりますと、低次元カオスの知見だけでは不足であり、
大自由度な系の特徴を捉えつつ単純で普遍性を有するような新たな枠組みが必要となります。
これまでに紹介した
リドル・ベイスン
や
オンオフ間欠性
と、本ページに紹介する CML と GCM は
その枠組みの一つと言えます。
CML と GCM はカオス写像を複数結合させる、というある意味暴力的なまでの単純化を行っています。
それがどれだけ自然界という大自由度複雑系の本質を捉えているのか、
それは今後の研究の進展を待つべきと言えますが、その成功例の一つとしては
柳田氏による沸騰のモデル化
が知られています。 また、多くの大自由度カオス系で発見されるようになった
カオス的遍歴
が見出されることも重要です。
このページのシミュレータは N=200 個のロジスティック写像を結合したモデルの 振舞いを視覚化します。
CML と GCM を選択可能で、非線形パラメータ a と 結合強度 g を調整できます。
時刻 n における サイト i の出力 x
n
(i) が 2 ステップごとに表示されます。値が大きい程青い色で表示されています。
特徴的に見られる振舞いは以下のようなものがあります。
[CML]
凍結カオス
(frozen chaos): a<1.5
様々な大きさを持ったクラスターに分かれます。
このクラスターはアトラクターと考えられますが、初期値を変えるとクラスターが変化することから、多数個のアトラクターが共存していると考えられます。
アトラクターの個数は N に関して少なくとも指数関数的に増えます。
パターン選択
(pattern selection): 例えば a=1.71, g=0.4
ほとんど同じ大きさをもったクラスターに分かれます。クラスターのサイズはパラメータに依存します。
欠陥のカオス的ブラウン運動
(chaotic Brownian motion of defect): 例えば a=1.85, g=0.1
上のパターン選択が起こる際クラスター中に欠陥が残り、その欠陥がブラウン運動的に揺らぐ現象です。
欠陥乱流
(defect turbulence): 例えば a=1.895, g=0.1
欠陥が乱流的に結合・生成します。
時空間欠性
(spatiotemporal intermittency): 例えば a=1.75, g=0.3
秩序状態とカオス状態の間を時間的、空間的に間欠的に遷移します。
発達した時空カオス
(fully developed spatiotemporal chaos): 例えば a=2.0, g=0.3
ほとんどの素子がほぼ独立にカオス的に変動しているような状態です。
伝搬波
(traveling wave): 例えば a=1.47, g=0.5
ゆっくりした速度でクラスターの波が移動します。
[GCM]
a を固定し、g を小さい値から大きい値へと変化させると
非同期状態→部分同期状態 (秩序相) → 一様同期状態 (コヒーレント相)
の転移が見られます。
中間領域では
カオス的遍歴
(chaotic itinerancy) も見られます (例えば a=1.95, g=0.2)。 これは複数のアトラクター間をカオス的に乗り換えてゆくようなダイナミクスです。
カオス的遍歴は複数のカオスアトラクターが共存する大自由度系ではしばしば見られます。
脳の記憶のモデルに現われる
カオス連想記憶
も、このカオス的遍歴の一つであると考えられます。
CMLとGCM どちらにも共通に言えるのは、高次元空間に多数のアトラクターが共存していることです。
このページは以下の文献を参考にしています。
金子邦彦, 津田一郎
"
複雑系のカオス的シナリオ
," 朝倉書店 (1996).
←「ブローアウト分岐とオンオフ間欠性」へ
/
「二重振り子」へ→
カオス&非線形力学入門に戻る