第三回-01 線形と非線形

線形とは英語で linear (リニア) と言い、「まっすぐ」や「平ら」ということに関係した数学的な用語である。
もちろん、「線形代数 (Linear Algebra)」の「線形」である。

「リニア」が「まっすぐ」や「平ら」という後に関連していることは、機械系の学生ならば下記の語を思い出すことでイメージできるだろう。 さらに、ガンダムの世界には「リニアシート」と呼ばれるものがあるし、シェーバーには「リニアスムーサー」というブランドがある。
このように、「リニア」という言葉は比較的日常に馴染んでいると言える。

「リニア」の日本語が「線形」であることを知らなかった学生はここで覚えてしまおう。
さらに、線形でないものを非線形 (nonlinear、ノンリニア) と言うことも覚えてしまおう。

本ページでは、数学上で「線形」と名の付くものを列挙してこの用語に慣れることを目指す。

線形写像 (関数)

まず、線形写像 (線形関数) について紹介しよう。どのような関数が線形と呼ばれるかを確認する。

以下の加法性



および斉次性



の二つの性質をもつ写像を線形写像 (線形関数) という。

二つの性質をまとめて以下のようにも書ける。



さて、一変数関数で線形性を持つ関数は以下のものだけであることが知られている。a は定数である。



それ以外の以下のような一変数関数は全て非線形である。



また、二変数以上の関数の場合、多重線形性というものを考えねばならない (解説は省略) が、
二変数関数における線形関数は以下のもののみであることが知られている。



x2、y2、xy のような項が入れば非線形である。

さて、線形関数である y = ax は (x, y) 平面上で原点を通る直線であることが知られている。
また、同様に z = ax + by は (x, y, z) 空間上で原点を通る平面であることもわかるだろう。
冒頭で、線形のことを「まっすぐ」や「平ら」ということに関係している、と述べたのはこれらの性質が関連している。

さて、機械系の学生にとって最も馴染みがある線形関数は、ばねののび x とばねの復元力の関係を表すフックの法則



ではないだろうか (運動方程式で向きを考慮する場合はマイナス符号がつく)。

グラフで描けば下図のようになる。ばねの伸びと復元力が線形の関係にあることが示されている。



また、フックの法則は材料力学でも学ぶはずである。 ひずみを ε、応力を σ 、弾性率 (ヤング率) を E としたとき、弾性域で次式が成り立つ。



材料によって異なるが、典型的な応力ひずみ線図は下図のようであった。
ε と σ に線形の関係が成り立つ領域 (弾性域) はある範囲に限られていることが図に示されている。



このように物理系で線形関係が成り立つのは、ある狭い領域であったり、 より複雑な関係を直線で近似した場合であることが多い。
次ページではそのようなシステムのシミュレーションを行う。


線形演算子

線形関数で紹介した加法性と斉次性を持つ演算子のことを線形演算子という。

以下の性質があることから、微分演算子は線形演算子である。



同様に、以下の性質があることから、積分演算子は線形演算子である。




線形方程式

線形関数 f(x) に対し、以下の形で書けるものを線形方程式という。



一変数関数の場合は以下が線形方程式である。



二変数関数の場合は以下のような連立方程式が線形方程式である。



この連立方程式は、以下のように 行列 A、ベクトル xb を定義すると、



以下のように行列で表現することができる。



皆さんは学部の講義である線形代数で、行列による方程式の解き方を学んだと思う (2次元行列に限らず、3次元、4次元なども含む)。
それらにより、線形方程式の解き方を学んでいたということである。


線形微分方程式

線形微分方程式は、本講義で重要な意味を持つ。

t による微分演算子を用いた線形作用素 L と、求める関数 x(t) 、定数 b を用いて



と書ける微分方程式を線形微分方程式と言う。

と言っても良く分からないので、具体例で記す。

以下のように L が微分演算子そのものである場合、



以下の線形微分方程式が得られる。



また、以下のように L が微分演算子と定数の和である場合、



以下の線形微分方程式が得られる (2行目は ax を右辺に移項したもの)。
これは一階定数係数線形微分方程式と呼ばれる。制御工学を学んだ皆さんにとっては一次遅れ系としてお馴染みのものである。



また、以下のように L が二階微分、一階微分、定数の線形和 (定数をかけて和をとる) の場合、



以下の二階定数係数線形微分方程式が得られる。皆さんにとってはばね-ダンパ系や二次遅れ系としてお馴染みのものである。
動摩擦がない (p=0) 場合が単振動である。







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