位相応答関数を用いたパルスニューラルネットワークの同期解析




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シミュレータ解説

(α,Δφ) 定常な位相差 Δφ (p で表示)のシナプス定数 α への依存性をプロットします。
が安定な位相差、が不安定な位相差です。
選んだモデルやシナプス波形によって変化します。
フィールド上をクリックすると、シナプス定数 α を決定できます (ピンクの線は現在の α)。
フィールド外をクリックすると、ピンクの線は消えます。
V(φ), Z(φ), I(φ) ニューロンの膜電位 V(φ)、位相応答 Z(φ)、シナプス入力 I(φ) 表示します。
シナプス定数 α の値に応じて、シナプス入力の波形は変化します。
位相 φ と時刻 t は同一視できます。
Γ(φ), Γodd(φ) Z(φ) と I(φ) から計算される Γ(φ) と Γodd(φ) を表示しています。
Γodd(φ) と横軸の交点が定常な位相差を表しており、
赤丸が安定な位相差、青丸が不安定な位相差です。(α,Δφ) 平面と対応しています。
ニューロン 100 個を結合させた系のシミュレーション 同期解 (Δφ=0) が安定であれば、全素子は同期する傾向にあります。


脳内では視覚野や海馬など、様々な領野でニューロンの活動が同期していることが報告されています。
つまり、複数のニューロン同士が揃って出力を出す (発火する) というわけです。
また、「揃って出力する」場合のみではなく、「出力に相関がある」場合も「同期している」と呼ぶ場合があります。

この同期現象の機能的役割として、外界からの視覚情報の統合 (バインディング問題) や、
学習の制御に関わっているのではないかという提案がなされていますが、
その理解はまだまだこれからと言えるでしょう。

また、同期現象の機能だけではなく、そのメカニズムの解明も脳科学の重要な課題の一つです。
ここでは、同期現象のメカニズムに対する理論からのアプローチを一つ紹介しましょう。

まず、周期的に振動している2つのパルスニューロンが弱く結合しているモデルを考えます。
今、簡単のため、一方のニューロンのダイナミクスを以下のように書きましょう。



f(x) はニューロン x のダイナミクス、I(x,x') はもう一方のニューロンからのシナプス入力を表します。
シナプス入力は、以下のように exponential 関数の重ね合わせか alpha 関数の重ね合わせでモデル化します。tk はニューロンの k 番目の発火時刻です。



このように弱く結合した振動子系は以下のように位相モデルに縮約できることが知られています。



Z(φ) は位相応答関数と呼ばれ、小さな擾乱に対する周波数変化を表します。
つまり、時計のように周期的に振動しているニューロンに外乱が入った際、
その時計が進むか遅れるかを表すのが位相応答関数です。φ はニューロンに外乱が入るタイミングを表します。

平均化によって、2ニューロン系のダイナミクスは以下の位相モデルに従います。



ただし、Γ(φ) は以下のように定義されます。



以上の準備のもと、振動している 2 つのニューロンの位相差 Δφ のダイナミクスを考えましょう。
Δφ が 0 に収束する場合、2 つのニューロンは同時に発火する、すなわち同期します。
Δφ が 0 に収束しない場合は 2 つのニューロンの発火の同期は崩れます。

その Δφ のダイナミクスは以下のモデルを調べることでわかります。
また、定常な位相差 Δφ は Γodd(Δφ)=0 を満たし、その微分係数によって安定性も調べることができます。



上のシミュレータでは、この位相応答関数を用いた解析を行い、 様々なニューロンモデルを用いてその妥当性を調べることができます。 以下のモデルや入力を選択することができます。 上の理論では素子 2 個の解析でしたが、2 個で同期する場合は素子を増やしても同期しやすい傾向があります。
各モデルのシミュレーションは 100 個のニューロンで行い、結合は 以下のように全結合とします。



位相差 Δφ=0 が安定なときは同期発火状態に収束することがわかるでしょう。

なお、各モデルの定義はこちらのページ を参照してください。

さて、以上が位相応答関数による同期解析の概略ですが、この理論の前提条件は以下の様になっていました。 位相応答関数による解析は大変美しい結果を与えてくれますが、
結果を解釈する際、上記の前提条件が満たされるかどうかには注意を払う必要があります。

特に、ニューロン 1 素子が自然な条件で完全に周期的に発火しているとして良いかは留保が必要です。
多くの場合、1 素子レベルでの発火の周期が大きく揺らいでいたり、
あるいは毎周期に発火しないため 1 素子の発火率が低い、というような 実験データが多いように思われます。
そのような場合上の理論は適用できませんが、 非発火状態も取り扱えるよう理論を拡張する試みもあります。

また、理論の適用範囲外であっても、位相応答関数による解析が研究のヒントや指針を与えてくれることはあります。
例えば、シナプスの伝達に有限の時間がかかるとき (シナプスがα関数のとき)、
興奮性素子よりも抑制性素子の方が同期しやすい
ことが位相応答の解析によりわかりますが、
経験上、この結果は位相応答理論を適用できない系にも当てはまることが多い印象があります。
(あくまで私の個人的な印象ですが)

以下の私の論文では 「周期的に振動しているニューロン同士の同期」ではなく
周期的に振動しているネットワーク同士の同期」を位相応答により解析しました。
周期的に振動するのはネットワークですから、その中に含まれるニューロンの活動が周期的である必要はなく、
確率的ですらあって良いという点で、現実の系に近いのではないかと考えています。

このページは以下の文献を参考にしています。
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「パルスニューラルネットワークにおける振動・同期・カオス〜Fokker-Planck 方程式を用いた解析〜」へ→

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