Hénon (エノン) 写像のアトラクター



henon.jarをダウンロードしてダブルクリックして実行してください (コマンドラインでは java -jar henon.jar)。

マウスのドラッグにより領域を指定すると、表示範囲が拡大されます。

シミュレータが実行出来ない方は www.java.com からJavaをインストールしてください。


以下の式で表されるエノン写像を考えます。

xt+1=1-axt2+byt
yt+1=xt

上のシミュレータではデフォルトで a=1.4, b=0.3 におけるアトラクターを表示します。
なお、Hénon はフランス人の天文学者ですから、"H" は発音せず「エノン」と発音します。

一般に、写像のヤコビアン行列式の値は位相空間上の体積が 1 回の写像で変化する割合を表しますが、
この写像のヤコビアン行列式は -b であり、|-b|=0.3<1 であるため、エノン写像は位相空間の体積が収縮する散逸系です。
物理系で言えばエネルギーが散逸するということを意味します。

エノン写像に対して b=0 (体積収縮率無限大の極限) をとると xt+1=1-axt2 が得られ、
これは変数変換によりロジスティック写像と等価であることがわかります。
これまでみたように、ロジスティック写像は散逸系カオスの様々な特徴をとらえていましたが、
系のアトラクターが 1 次元 (数直線上の [0, 1] 区間) であり、アトラクターがフラクタル性を持たないという欠点がありました。
これは、体積収縮率無限大の極限を取ったことが原因です。
なお、ロジスティック写像の分岐図はフラクタル性を持っていましたが、分岐図はアトラクターとは異なる概念ですので別の話です。
フラクタル性を持つアトラクター (ストレンジ・アトラクター) を見せる最も簡単なモデルがこのエノン写像です。

アトラクターのフラクタル性を確認するためにマウスのドラッグにより領域を選択して拡大してみましょう。
一本の曲線に見えたものが複数の曲線で構成されていることがわかるでしょう。
理想的にはいくら拡大しても無限にひも構造が見えるはずですが、
計算時間が有限であるため、ある程度拡大すると点がほとんど表示されなくなります。

また、右のバーでパラメータ a の値を調節することができます。
a の値を変更するとロジスティック写像と同様に分岐現象が起き、周期解やバンドカオスなどが見られます。

なお、力学系の挙動がカオスであるかどうかを判定するために (最大) リアプノフ数という量がしばしば用いられます。
このシミュレータでもエノン写像のリアプノフ数を計算しており、フィールド上に表示させています。
カオス性があれば、リアプノフ数は正の値をとります。



以下でリアプノフ数の計算方法を示しましょう。やや専門的になりますので飛ばして頂いても構いません。
まず、Xt+1 = F (Xt) で表されるエノン写像系の 点 Xt+1= (xt, yt) における軌道拡大率

で定義します。DF(Xt) は点 Xtにおけるヤコビアン行列、 u1(Xt) は点 Xtにおけるアトラクターに対する単位接ベクトルです。

この軌道拡大率を用いて、粗視的軌道拡大率

で定義します。これは n 個の点の軌道拡大率を平均したものです。
アトラクターの色はこの粗視的軌道拡大率に基づいて決められていますが、 これは後で解説します。

粗視的軌道拡大率を n →∞ の極限をとることで、最大リアプノフ数が

と計算されます。リアプノフ数はほとんど全ての初期点 X0に対して一定値を取ります。
このシミュレータでは 10000 〜 500000 回の平均を取ることでリアプノフ数を求めています。
アトラクタのサイズを変更したり「Resize or Redraw」ボタンを押すとリアプノフ数が再計算されますが、
試行ごとに値が微妙に変化します。これは平均回数が有限であることの影響です。

さて、リアプノフ数は初期点 X0 にほとんど依存しませんが、粗視的軌道拡大率は n が有限であるため、初期点 X0 に依存します。
シミュレータ上のアトラクターはこの粗視的軌道拡大率に基づいて色づけられています。
黄色は粗視的軌道拡大率が小さいことを、赤色は大きいことを意味します。

デフォルトでは n=1 ですので、これは軌道拡大率そのものです。
アトラクターのカーブの部分では軌道拡大率が負の値を取りますから、 黄色になっているのがわかるでしょう。
なお、アトラクターの尖った部分も拡大すると滑らかな曲線になっており、 黄色になっています。

n を 1 から大きくして行くと粗視的軌道拡大率は軌道の情報を取り込みながら アトラクター上で様々な値をとります。
例えば、 n=5 にセットし「Resize or Redraw」ボタンを押してみましょう。 アトラクター上に黄色の領域がまばらに現れるでしょう。
これらの点は、以後の 5 ステップ以内に曲線のカーブの領域を通過する点です。

より専門的に言うと黄色い領域は、「エノン写像のアトラクター」ギャラリーで紹介した安定多様体とアトラクターの接点の軌道を反映しています。
このように、粗視的軌道拡大率の統計性はアトラクターの空間構造を反映しています。

なお、n を大きくすると粗視的軌道拡大率はリアプノフ数に近付くため、 アトラクターの色は一様になってゆきます。

このページは以下の文献を参考にしています。
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