結合つなぎ換えにより誘起される同期とカオス




firingviewer.jarをダウンロードしてダブルクリックして実行してください(コマンドラインでは java -jar firingviewer.jar)。

シミュレータが実行出来ない方は adoptium.net からOpenJDKをインストールしてください。




シミュレータ解説

素子の発火 縦100×横100の平面のグリッドに興奮性素子 (E) と抑制性素子 (I) が一つずつ配置されています。
興奮性素子が発火すると黄色、抑制性素子が発火すると青色、両方が発火すると緑色で表示されます。
E&I 間結合強度 g と つなぎ換え確率 p のパラメータ平面 E&I 間結合強度 g と つなぎ換え確率 p を調整すると、ある領域では非同期発火 (async.)、ある領域では同期発火 (sync.)が見られます。
このシミュレータでは非同期発火2種、同期発火2種 (周期同期とカオス的同期) を見ることができます。
この平面をクリックするか、あるいは右上の選択肢で選択することができます。
(JE,JI) 興奮性および抑制性集団の発火頻度 JE、 JI の時間変化を (JE,JI) 平面上に描いたグラフです。

非同期発火の場合は平衡点、周期同期発火の場合はリミットサイクル、カオス的同期発火の場合はカオスアトラクターになります。
JE(t)、 JI(t) の時間変化 興奮性および抑制性集団の集団的発火頻度 JE(t)、 JI(t) の時間変化を表示します。
黄色が興奮性集団、が抑制性集団を表します。


ここまでに見てきた「パルスニューラルネットワークにおける振動・同期・カオス」、「電気結合を持つパルスニューラルネットワークにおける Stochastic Synchrony of Chaos」では 素子間の結合は大域結合 (グローバル結合) と呼ばれるもので、 ある素子は他の全てと結合している、というものでした。素子数が大きければこの結合はランダム結合と等価でした。

しかし、現実の神経細胞が結合できる細胞の個数と距離には制約があるため、 そのような性質を取り込んだモデルが必要となります。 このことを「モデルに空間構造を取り入れる」ということもあります。 空間構造を取り入れたモデルとして簡単なものに、ワッツ (Watts) とストロガッツ (Strogatz) が 1998 年に提案した結合つなぎ換えのモデルがあります。このワッツ-ストロガッツ (Watts-Strogaz) モデルは、ある素子の結合が近隣のものとのみであるという局所結合モデルから出発し、そして、ある確率 p で結合を遠くのものにつなぎ換えていきます。そうすると、p が 0 で局所結合、p が 1 でランダム結合 (素子数が多ければ大域結合と等価) となり、様々な結合をもったネットワークが一つのパラメータ p の調整により現れるようになります。

また、ワッツ-ストロガッツモデルでは p が小さいとき、典型的には 0.01 ~ 0.1 程度のときに、モデルに「スモールワールド」という性質が現れることが知られています。すなわち、つなぎ換えの割合が小さいにもかかわらず「つながった素子が固まって存在する (局所性)」、「遠くの素子へ短いステップで到達できる (長距離性)」の2つの性質をあわせ持つのです。このようなスモールワールド性は、我々の友人関係のネットワークやインターネット、遺伝子ネットワークなどでも見られることが知られています。

さて、本ページのモデルは、2次元平面に配置された神経細胞のネットワークにワッツ-ストロガッツの結合つなぎ換えを導入し、同期特性を調べています。 ネットワークは 100x100 のグリッドからなっており、各グリッドには興奮性素子 (E) と抑制性素子 (I) が一つずつ配置されており、E→E、E→I、I→E、I→I の結合が存在します。これらの結合は p=0 では局所結合となっており、 つなぎ換えは E→E、E→I、I→E の結合に行います。 更に、論文では E→E、E→I のみにつなぎ換えを行ったモデルも解析しています。 なお、ここでは E→I と I→E の集団間結合強度を共通の値 g として、この依存性についても調べています。

解析の結果、つなぎ換え確率 p を大きくすると、ある大きさの p で非同期発火から同期発火への転移が起こることが明らかになりました。 それは、シミュレータ内の「E&I 間結合強度 g と つなぎ換え確率 p のパラメータ平面」を見るとわかります。p を小さい領域から大きい領域へ変化させると黒い曲線で表される転移点を超え、非同期 (async.) 領域から同期 (sync.) 領域へ移行します。 この転移点は、E-I 間結合強度 g に依存し、g が小さいときには転移点も小さくなり、 「スモールワールド (p 小)領域で転移が起こる」ことも可能になります。

このシミュレータでは非同期発火2種と同期発火2種(周期同期発火とカオス的同期発火)のダイナミクスを観察することができます。 右上の選択肢で選ぶか、あるいはパラメータ平面 (g-p 平面) をクリックすることで選択してください。

このページは以下の文献を参考にしています。
←「電気結合を持つパルスニューラルネットワークにおける Stochastic Synchrony of Chaos」へ
「パルスニューラルネットワークにおけるカオス連想記憶」へ→

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