ブローアウト分岐とオンオフ間欠性




lorenzcouple.jarをダウンロードしてダブルクリックして実行してください (コマンドラインでは java -jar lorenzcouple.jar)。

シミュレータが実行出来ない方は adoptium.net からOpenJDKをインストールしてください。




ローレンツ方程式に従う二つの系 (x1, y1, z1), (x2, y2, z2) を結合した以下の系を考えます。

g は二つのローレンツ系の結合の強さです。 今、σ=10, r=8/3, b=28 を考えましょう。これはこのページ のパラメータと同じです。

結合の強さ g の値が十分大きいと、二つのローレンツ系は同期しながら ローレンツアトラクターを描きます。
同期状態とは x1=x2、 y1=y2、 z1=z2 が満たされた状態のことを言います。

もともとの方程式は 6 次元であり、 x1=x2、 y1=y2、 z1=z2 なる条件を満たす空間は 3 次元ですから、
この同期状態を「系が 3 次元の不変部分空間に閉じ込められた状態」と考えることができます。

結合の強さ g を小さくすると系の同期状態が崩れますが、 これは「不変部分空間への閉じ込めが不安定化した」と見ることもできます。
このように、不変部分空間への閉じ込めが不安定化するときに起こる分岐が ブローアウト分岐 (blowout bifurcation) であり、
この時オンオフ間欠性 (on-off intermittency) と呼ばれる間欠性カオスが しばしば見られます。

本ページのシミュレータでブローアウト分岐とオンオフ間欠性を観察することができます。
まず、シミュレータの右側には x1, y1, x1-x2 の三つの値の時間変化を三次元空間に描画しています。
各変数の軸がそれぞれの線分で表示されています。
なお、この 3 次元空間の視点は右側の 4 つのバーで変更することができます。

いま、 (x1, y1) 平面が上で述べた「系が閉じ込められる不変部分空間」であることに注意しましょう。
系の軌道が (x1, y1) 平面近傍にあるとき、すなわち系が不変部分空間に近傍にいるとき、軌道は赤~黄色で色がつけられています。
系が不変部分空間から離れると、軌道は青い色で描かれます。
デフォルトの状態では系は不変部分空間近傍をさまよったり、不変部分空間から外れたりしているのが分かります。

それでは、x1-x2 の時系列のみを観察するとどのようになっているでしょうか。それを観察するのがシミュレータの左側の平面です。
x1-x2 が 0 くらいの値を取る状態 (オン状態) が 長く続き、ときおり間欠的に非 0 の大きな値を取る状態 (オフ状態) が現れます。
このような間欠的なカオスの性質をオンオフ間欠性と呼びます。
オンオフ間欠性を持った時系列はフラクタル性をもつこと、そして様々な統計量に異常性が見られることなどが多くの研究者により調べられています。

さて、デフォルトの状態では系にオンオフ間欠性が見られる、すなわち、二つのローレンツ系が同期状態を非同期状態の間を遷移するようなパラメータになっていました。
ここで結合の強さ g の大きさを変更してみましょう。シミュレータの中央のバーで g の大きさを変更することができます。
g を十分大きくすると、二つのローレンツ系が同期します。このとき右の三次元空間では 系が (x1, y1) 平面に閉じ込められ、
左の平面では x1-x2 が常に 0 をとります。
g を小さくしてゆくと、およそ g=3.9 で閉じ込めが不安定します。 この転移点で起こるのがブローアウト分岐です。

ブローアウト分岐が起こるのは、不変部分空間を横断する方向のリアプノフ数が 負から正に変化するためです。
Ott と Sommerer は、オンオフ間欠性を伴うブローアウト分岐を nonhysteretic (非ヒステリシス的) なブローアウト分岐とし、
リドル・ベイスンを伴う hysteretic (ヒステリシス的) なブローアウト分岐と区別しました。
オンオフ間欠性は不変部分空間の外に他のアトラクターが存在しない場合に起き、
リドルベイスンは不変部分空間の外に他のアトラクターが存在する場合に起きます。

さらに彼らは、典型的な状況ではブローアウト分岐はオンオフ間欠性かリドル・ベイスンのどちらかを伴うことを予想しています。
これは横断方向の粗視化軌道拡大率が揺らいでいることに関連しています。

このページは、以下の論文に基づいています。


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